器官を再生する|毛髪再生
毛髪再生医療の実現を目指して-毛髪の機能-



さらに、ヒトは社会的な生き物であり、頭髪や眉毛、ヒゲ等により個体を識別するための個性や若さを表現していると考えられています(図)。
そのために、毛髪は適切な場所に適切な性質を持っていると考えられています。
(a) マウスとヒトにおける毛髪の分布と機能
(b) マウス体毛と頬髭の比較
(c) ヒト頭髪と体毛の比較
M, 毛髄; C, 毛皮質. Bars, 20m.
毛髪再生医療による脱毛症治療の戦略(既存技術との比較)


全国で1,200万人以上の男性が男性型脱毛症であると言われています。また円形脱毛や遺伝的素因による毛髪の形成不全など、多くの毛髪に関わる悩みや不具合、皮膚疾患が知られています。
毛髪を作り出す器官である毛包は、男性ホルモンの影響で小さく変性したり、自己免疫や外傷により破壊されることで、脱毛症を引き起こすと考えられています。現在、多くの脱毛症は医療機関における内科的・外科的な治療が積極的に行われています。
これまでに、男性ホルモンの影響を阻害する薬剤や、正常な毛包を切り取り脱毛部位に移植する自己植毛術が開発され一般的になりつつあります(図)。しかし、これらの治療技術では、全ての症例に有効ではなく、また毛包の数を増加させることはできません。
私たちは、患者さん自身の細胞を使って正常な毛包のもととなる「毛包原基」から毛包を再生する「毛髪再生医療」の基礎研究を進めています(図1下)。
(a) 男性型脱毛症の治療戦略
(b) 自己植毛術と毛包再生医療の比較
毛包には器官再生能のある幹細胞が存在する


髪の毛を生み出す器官である毛包は、他の器官と同様に胎児期に上皮細胞と間葉系細胞の相互作用により形成されます(上図)。他の器官は胎児期にしか形成されないのに対して、毛包は周期的なヘアサイクルにより毛包器官の再生を繰り返しています。
毛包には、毛包上部の皮脂腺付近に少し膨らんだ部分(バルジ領域)に毛包上皮幹細胞が存在し、毛乳頭には、真皮や皮下組織などに分化できる多分化能を持つ幹細胞と相互作用して、毛包再生によるヘアサイクルが起こると考えられています(下図)。
また、毛髪の色を制御するメラノサイトの幹細胞も、バルジ領域付近に存在することが示されています。これらの複数の幹細胞は、三次元的に特定の場所(ニッチ)で維持され、生涯に渡って器官再生能を持ち続けると考えられています。
(a) 毛包の発生と毛周期
(b) 成体毛包における幹細胞ニッチ
毛幹細胞から毛包器官を再生する


私たちが開発した「器官原器法」は、胎児期の歯や毛包原基細胞が自律的に器官発生を再現して機能的な器官の再生を可能としました。
私たちは、成体の毛包幹細胞から器官原器法により人工的に再生毛包原器を作製し、任意の皮膚内に移植して、皮膚表皮層やその他の組織と正常に連続した毛包を再生させる技術を開発しました。
この技術により、再生毛包は周辺組織と適切に接続すると共に、機能的な再生が可能であり、毛髪再生医療の実用化に向けて大きなブレークスルーを与えることができました。
今後、私たちは、ヒト自己幹細胞を用いて毛包原基を再生し、移植する医療技術を確立し、毛髪再生医療の実現に貢献したいと考えています。
(a) 胎児毛包原基細胞による再生毛
(b) 成体頬髭細胞による再生毛(皮膚内移植)
